『吐き気』

いやらしいそのバーに男がいた 疲れた年寄りだった
隣に座って一番安いバーボンのストレートを頼むと
男はやおら語り始めた

ここの酒は最悪だ最低の金で悪夢のように快感を与える臭い液体だ
客も最高だ汚ねえツラでみんな絶望したフリしてやがる俺は希望を
知ってるんだけど誰もそれを祝福しねえ俺らを救ってくれるのはこ
のマズイ液体だけさイエス・キリスト様彼らを救ってくださいマリ
ア様あなたを犯したい天使にあなたは犯されたのでしょう悪魔より
も人間と契ったらどうですかああ兄ちゃん煙草をくれんかありがと
うマズイ酒をうまくするもんなんかこの世にゃあないけど兄ちゃん
の煙草はうまいなああの馬鹿共のツラを見ろやみんなアホヅラでこ
っち見てるだろう今にも開いた口から精液が垂れそうなクズみてえ
な女がこっちを見てるやいクソ女このビッチが見るんじゃねえよブ
タ野郎帰ってオマンコしやがれおい酒お代わりだ兄ちゃんもっと飲
まねえのかいいぜ俺のおごりだと言っても金なんてこれっぽちも持
っちゃいねえがなこんな小便みてえな酒に払う金なんざねえんだよ

僕は男と乾杯して店を出た 吐いた 腐った酒と胃液

ゴミにまみれた川辺に女がいた 綺麗な女だった
隣に立って何をしているのか見てみたら
女は白い手を泥だらけにしながら
使用済みでくちゃくちゃになったコンドームや煙草の吸殻を
やけに熱心に拾っていたのだった

「何をしているんですか」
「見てわからない?」
「解りますけど解らない」
「グリーンマークって知ってる?」
「知ってます」
「私は昨日知ったんだけどね、あんな紙に緑色で絵が書いてあるのを
 100枚集めれば木が植えられるっていうじゃない。感激しちゃっ
 てね。で、あんなわけ解らないもので木が貰えるのなら、ここにあ
 る物を拾っていけば、もっと沢山植えてくれるんじゃないかなって」
「コンドームでですか?」
「馬鹿にしちゃいけないわよ。これが人口の増加を一部防いでいるん
 だから。とにかくそんな物を持っていくの。文部省に・・・、あ、
 今は文部科学省だったわね。あんな緑色した紙より素敵でしょ?」
「なるほど・・・」
「分かる? それに煙草だって人口の増加を防いでいるのよ」
「ええ」

僕は目の前で使用済みコンドームをひらひらさせながら
本当に綺麗に微笑む彼女に笑い返した

「わかりますよ。吐き気がするほど」

無残に枝がへし折られた桜の木の下に鬼がいた
難しそうな顔をしているが別に怒っているわけじゃない
僕の目が悲しいほど日本人だからそう見えるだけであり
やはり僕は悲しいほど人間だと自覚する

「頼みがある。僕を殺してくれないか」 僕
「俺たちは人間の為の便利屋じゃない」 鬼
「わかるよ」 僕

吐き気がするほど




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