『君へ帰る』

月が降ってた
僕たちは産まれて　大人になってた
昨日、妹が死んで
僕は二人になった

おめでとう　誕生日おめでとう
ハッピーバースディトゥーユー
生まれてきてくれてありがとう
さあ共に生きていこう

耳も目も口も無く生まれた君が
全身で泣き叫ぶ意味を僕は知ってる
腐り落ちていく四肢を持って生まれた君が
この世界に祝福されていないことを僕は知ってる

月が降ってた
僕たちは産まれて呪われていった
昨日、君が死んで
僕はこの世界を抱きしめる

声を上げて泣くのは知らない僕だから
世界の頂上で一番大切な人の名前を力一杯叫ぶんだ
この世界に産まれて来た僕たちだから
繰り返され　やがて終わりを迎えてしまう
この世で最も美しい生命の連関を
心から悼むんだ

昨日、妹が死んで
僕は二人ぼっち
キスしてあげればよかった
あの子はそれだけを望んでいたのに

圧倒的な朝焼けの福音に染まる僕の両手は
世界を覆う呪いを一身に受けている
人が人として生きていくことを呪う
そんな呪いを受けている

だから、だけど僕は

次の晴れた日に
あの坂道を息を切らせながら駆けのぼって
「おかえり」って笑う君へと帰る