200607
■2006/7/18 「君がいない世界」
 君が死んだのも確かこんな雨の日だった。車窓からの景色は闇に塗り込められていて、僕は呆然とその奥にあるはずの何かを探そうとしていたっけ。時折通り過ぎる外灯の光が尾を引いて、魂の残骸みたいな軌跡を残し、もう何も見えないはずの目蓋の裏に残っていつまでも消えなかったのを覚えている。
 昨日、また友人を無くす所だった。君たちはいつでも勝手だ。勝手に絶望して勝手に消えていく。僕が友人として言いたいことはただ一つだ。どうして何も言ってくれなかったのか。僕では何の力にもなれなかったのか。いや、僕だけじゃない。誰も君の力にはなれなかったのか。君がいなくなった後で僕たちがどれほど長い時間をかけてその傷を癒すのか想像もできなかったのか。自分が抱えた苦痛からすればそんなことは些細な茶番に過ぎないと思ったのか。懐かしい情景に手を振るように、僕達も過去の物としてしか感じてはくれなかったのか。
 ああ、雨はまだ降り止まない。思い出はただ色褪せて行くばかりだ。匂いも、温度もただ遠ざかって行くばかりだ。だけどその分だけ、遠ざかったことを自覚できた分だけ、ひたすら痛みだけが増して、僕たちの胸を更に深く抉るのだ。罵ることも殴り倒すことも出来ない。君はもうここにはいないのだから。せめて夢の中で出会えることを祈ることしか出来ない。卑怯だ。なんて卑怯なんだ。くそったれ。
 君が無価値だと断じた世界で、今日も僕は呼吸し、飯を食べ、朝焼けに感動し、何か一つでも多く綺麗なものに出会えたらとぼんやり感じている。君がいない世界で僕は君を想う。泣いてなんかやらない。叫んでなんかやらない。歌ってなんかやらない。ただ悼んでいる。君がいない世界で。
■2006/7/28 「豚は惰眠を貪る」
 予め答えを全て示してやらなければ何も理解できない人間というのが本当にいるんだな。しかも、かなり多いらしい。最近そんなことを知って脱力している。読解力や理解力の問題ではなく、端から理解しようとしないのだということも分かった。いや、違うな。最近分かったんじゃないな。とっくに知っていたのに見ない振りをしてきたんだ。だってあんまり悲しいじゃないか。僕や他の誰かが声を嗄らして叫び続けているようなことがほとんど無意味だなんて、悔しいじゃないか。誰にでも分かると思っていたことが、実はそうじゃなかっただなんて、どうしたらいいのか分からなくなるじゃないか。
 何も理解できない人間、と言った。でも一番タチが悪いのは、したり顔の分かった振りで下らない勘違いをしながら、こちらににじり寄って来る輩だ。理解していると思い込んでいる類いの人種だ。また、理解したということが『何を理解したことになるのか』を全く考えも思いつきもしない暗愚どもだ。口を開けば溢れ出る益体も無い追従と空虚な自分語り。ウンザリして来る。それは安っぽいテンプレートに従った雑音の羅列に過ぎない。端的に言えば独り言だ。
 優しさが幅を利かせているような時代なのかもしれない、と随分前から思っている。みんな疲れ果てていて、癒しブームみたいな物も過ぎ去って、完璧な物に嫌気が差していて、かと言ってどこもかしこも覆い尽くす中途半端さに苦しんでいて。どこかに安易な答えが転がっていないかと嗅ぎ回りながら、結局自分の小さな王国の中で安寧を貪る恵まれた豚。気に食わないんだ、そういった物は。薄ら寒い共感とか、実の無い同意にも興味は無い。厳しく圧倒的な物にこそ触れたい。難しいか? いや、独りでなら割と簡単さ。
 片っ端から殴り倒せ。切って捨てろ。答えなんて知らねえよ。誰かに教えてもらえるのを期待して、いつまでもそこで口をパクパクさせてりゃ良い。そんなもんは初めからどこにもねえんだ。待ち続けてさっさとくたばっちまえ。ボクラの輝かしい未来に乾杯と洒落込んで、反吐を撒き散らすまで飲み喰いしたらそのまま暗転。ほら、もうつまらない劇は終わりだよ。とっとと帰りやがれ。

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