200611
■2006/11/7 「嘔吐」
 胸が張り裂けそうでも、つまらない苛々が募っても。僕には言葉と、音楽がある。随分救われてる。そうだ、頭の中が怒りで真っ赤に染まっても、僕には吐き出す手段がある。ギターを握って、掻き鳴らす。アンプは通さない。音楽は感情そのものだ。紙とペンを取って、言葉を撒き散らす。消しゴムなんて使わない。誰にも見せない言葉は破綻すらも許される。自由の形を定義する事なんて出来やしないけど(なぜなら、定義した瞬間にそれは純粋な意味での自由ではなくなるから)、僕は自由の形をこんな手段で享受している。
 一夜明けて。夜の残滓を部屋の隅々に感じては、酷い自己嫌悪に陥るんだ。感情と言う名前の無い怪物が踏みにじった物を涙ながらに拾い上げて、一つ一つ廃棄していく。僕は、言葉をこんな風に使いたいわけじゃない。音楽をこんな安っぽい刹那の衝動で浪費したい訳じゃない。僕が愛した物は、もっと透明で、濁り無い物のはずだ。中傷に塗れた薄汚い言葉は、自慰に狂った音楽は、悲しい。
 生産性なんて端から求めちゃいないけれども、例えば酒に逃げるように、僕は、大切な物を貶めたくは無いんだ。止まらない嘔吐感は、もう少しだけ必要なんだろう。全てがクリアになるためには。縋るのではなく、愛したい。心からそう思う。
■2006/11/9 「晩秋の空白」
 南風が吹く頃に、僕はまた君と出会いたい。冬を控えた晩秋の日暮れの中で燃やし尽くされていくのは、紅葉の名残と薄甘い過去の夢ばかりだ。両手を広げて大空に手を伸ばす。遠い秋空は何も答えず、立ち尽くす僕の影をひたすらに長くしていく。誰かの声を求めて至る所をそぞろ歩くけれども、本当は誰の声も聞きたくないんだ。冬支度を始めた街角でそっと携帯の電源を落としてから、もう一度ゆっくりと顔を上げた。君のいた季節の中、ああ、君といた季節の中。幾つ年が巡っても、僕は必ずこの空気の中で立ち止まってしまう。
 激しさを増していく冷たい風の中で、声にならない叫びをあげた。もういいだろ、充分だろ、苦しいよ、悲しいよ、涙なんてもうでないよ、幸福に、幸福になって行くんだ。そうあるべきなんだ。苦痛を表になんて出すものか。いつもの通り、両手をポケットに突っ込んだら、そら、柔らかく微笑むんだ。大丈夫だ、大丈夫なんだよ。だからもう季節の中で凍りつく必要なんて無いんだ。
 南風が吹く頃に、僕はまた君を歌いたい。桜舞い散る夢幻めいた情景の中でなら、どんなに荒唐無稽な夢にさえ容易く騙されもするだろう。悲しみも、苦しみも塗り潰してしまえるに違いないから。僕は、冬に向かっていくこんな季節の中で、ポケットに突っ込んだ手を硬く握りしめながら、やがて来る静謐を待つ。視界を覆い尽くす白銀の中で、葬列に加わる人の群れのように厳粛な面持ちで。ヘヴィシロップ漬けのダークチェリーを無理やり口に含まされた時のような胸のむかつきを誤魔化しながら。信じてやまなかった暖かな景色の中にいる二人の幻想を削り続けつつ。
 晩秋の空が燃えている。立冬なんて知らない。知りたくも無い。一心不乱にあちらこちらへと手を伸ばしながら、この手がいつかどこかへ届きますようにと祈った。張り裂けそうな胸で、叫んだ。
■2006/11/11 「独り言のような」
 例えば、厚く冷たい雲に覆われた空を見上げて感じることは昔と変わって来ているけれども、思い出す景色と匂いは益々深くなっていくばかりだよ。自分ばかりが繊細だと思い込んで、ひたすらに悲観していた時代は終わった。僕は今、どこにでもある一に過ぎない。認めることと諦める事の違いに気づけた瞬間から、なんだかすっかり身軽になったように思う。
 難しい言葉も、面倒な言い回しも本当は好きじゃないんだって事。言葉を連ねるほどに本当の気持ちからは離れていくんだって事。それを教えてくれたのは苦い経験だったけれども、今では感謝しているんだ。何物にも寄り掛からずに僕は僕でいられるって事も、また同時に教えてくれたから。書き連ねていく泣き言は醜くて、どうしようもないほど弱い。僕にはまだ必要だからこっそり綴る事もあるけれども、できればシンプルな言葉と、笑顔を大切にしたいと思う。
 まもなく冬が来る。透明な寒気が来る。頭の中まで凍りつくほどに深く息を吸い込んだら、今年も、つまらない事をみんなクリアにできるだろうか。心に渦巻く不浄を消し去れるだろうか。きっと大丈夫。ずっとそうやって来たんだから。
 冬が来たら。雪が降ったら。見渡す限りの物がみんな凍りついたら。頭の中を真っ白にして、ゆっくり眠ろう。そして春に目覚め、誇りと自尊心の違いを明確にしてまた踏ん張ろう。そして祈ろう。この退屈な独り言を来年こそは吐かなくても平気な自分になって行けることを。
■2006/11/17 「November Light」
 くっきりとした空だ。河辺に広がる茫漠とした遠景に佇んで今年も言葉を失う。この景色の中では小さな自己顕示欲なんて粉々にされてしまうから。道は川の蛇行にそって曲がりくねっていて、その先を見つめる僕の心は、でも何故か真っ直ぐになっていくのだ。ポケットに放り込んでいた携帯が震える。耳に押し当てて、懐かしい声を聞いた。11月の光の中、駆け抜けていく風の叫びの中で聞く君の声は酷く清々しいんだ。
 「もしも」の連続と、連続して湧きあがっては心を乱していくギチギチした後悔の中。ふと歩みを止めるのはいつもこうした季節の狭間だ。冬になりきれない晩秋の歌を、僕は雲間から差す射光から聞く。留めようも無い、素気もない生活に我を失って、奥歯を噛み締める時、鮮明な光は、いつでも僕の目を覚ます。
 懐かしい声に向かって、目前に広がる11月の故郷を伝えるのはやめておこう。今、君の心を乱す物を消すのは、きっとまだ過去ではありえないのだから。僕は、言葉を選ぶ事も忘れて、一心不乱に11月の話をしよう。なんだか字面からして冷たい印象を受けてしまう、霜月なんて旧名を持つ11月の暖かさを、我を忘れて君に伝えよう。友よ、故郷の景色はゆっくりと冬に向かっている。君と雪の降りしきる夜に震えながらこの河辺で飲んだ、ウィスキーの香りと熱さはまだこの胸に残っているんだ。だから僕は君に未来の話をしよう。まもなく冬の透明さで覆われるこの北の大地で、また君と出会えるように。
 くっきりとした空だ。雲は遠い。僕はかつてあの雲に自由を託してはぼんやりと笑っていたんだ。今はどうだろう。分からない。でも、もしかしたらあの頃よりも優しい気持ちで笑えているのかもしれない。鮮明すぎる光は辺りの景色を、僕を、あまりにも鮮明に映し出してしまうけれども、気にするものか。友よ、懐かしい君の声を抱いて、言葉を無くしたまま、ついでにつまらない自意識も薄れさせたまま、僕はもう少しだけ歩いて、帰る。
■2006/11/21 「悲しい夢」
 悲しい夢を見た。大切な人を失ってへたりこんでいる、そういう夢だった。夢ではなく、現実にも僕は幾度かの死別を経験しているけれども、やはり辛いものだ。そしていつまでも慣れないものだ。悲しい時、僕は涙が出ない。頭が真っ白になって、訳がわからなくなるだけだ。
 悲しい夢を見て、同時に思い出していた。僕が、別れのたびに何を誓ってきたかを。後で後悔するなら今やらないでおこうという単純明快な命題を。十年後に十年前に戻りたいと考えるくらいなら、今、この場でやっておくべきだという事を。友人を大切にし、恋人を愛し、家族を守り、自分を鼓舞し、叱咤する。それだけの事をやるのだと。この両手から失われていったものはいつも遠くて、いくら望んでも、もう決して触れることも出来ないのだから。僕は、それの温もりを感じられるうちにその幸福を噛み締めたいと思うのだ。それはとても単純な事。簡単な事。そのはずなのに。
 難しいね。どうしてだろう。本当に、どうしてなんだろう。僕らはいとも簡単に間違える。驚くほど易々と何も無い所で転んでしまえる。我を忘れて、一時の感情に流される。僕らが欲しいのはいつも、ひどくシンプルな物のはずだ。そしてそれは誰にでも分かりえる物で、世界一美しい物だ。誰にでも手に入れられる物のはずなんだ。
 悲しい夢を見た。僕は繰りかえしそれを思い出す。過たないように。何が必要だったのか忘れてしまわないように。本当に欲しい物がどこにあるのかを見失ってしまわないように。奥歯を噛み締めて、酷い頭痛と戦いながら、僕は悲しい夢にしがみつく。でも、もしかしたらまた我を忘れてしまう事もあるかもしれない。だから、誰にでもわかる言葉と、誠意でここに記しておこう。振り絞ってボロボロに疲れ、何も考えられなくなってしまったとしても、また思い出せるように。悲しい夢の中で声を上げる事もできずに震えていた、気が狂いそうな苦痛の記憶と共に。
■2006/11/27 「Try&Error」
 何かを作っては壊す、という連続の中。Try&Errorの渦の中。新しい何か、自分にとってのみ切実に必要な何かを作る行為を繰り返す。でもその形は様々で、中々人と重なり合うこともない。書き言葉で気持ちを伝えることに僕はあまり興味がない。気持ちは口で伝える方が好きだからだ。僕が言葉で綴るのは物語であり、興味があるのはそこに息づき始める頑迷とした真実一点のみだ。
 ギターを抱えて旋律を奏でる。僕が聞きたいのは脳髄までグシャグシャに掻き回すような混沌だ。重さと、不整脈的なグルーヴが欲しくて、六本の弦に依存する。美しい旋律も、陽気なリズムも愛しているけれども、僕がやるからには、僕が欲しいと思うものには、僕個人が楽しむ分には、一般性なんて必要ないからだ。
 試しては失敗し、また最初から作り直し、考え、悩み、苦痛に転げ周り、時には微笑んだりして、ボロボロになりながらも何かを作らずにいられないのはどうしてだろうか。僕が何もしなくても世界は明日へと向かうのだ。僕がしていることはただひたすら僕自身のためでしかない。言い換えれば自己満足だ。
 生存理由なんて知らない。価値も必要ない。そもそも、必要なことなんて何もない。そうなのに。分かっているけれども。今日も作っては壊しつつ、僕はそれに喜び、という言葉以外で表現しようもない感情を抱いて微笑む。

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