『名前』

立ち並ぶ石柱が僕を見上げる
風が通り抜けて行った

少し寒いから火を起こす
君は手をかざして微笑む 例え気が触れていても
僕は待っている
この火は全然暖かくないね

山羊のいるなだらかな丘で逢おう
神父様に名前を貰ったのに
それはとても素敵な名前なのに
何故だろう
僕はまだ名前を欲しがっている

石柱に腰掛けて僕は待っていた
さようなら また明日
もういいかい まあだだよ
十数えたら歩み出せばいいのかな
血に塗れてこの大地に投げ出された僕等は
それとも走り出さなければいけないのかな
いくら助走をつけても空には決して届かない僕等は

日が暮れたら帰りなさいと誰かが言った
いやだ、いやだよ
だってあなたの笑顔は歪んでる
いやだ、帰れないよ
だってこの子はどうするの
どこに帰ったらいいの
ここでは凍ってしまうよ
僕をこの子から引き離さないで

そうだ、一緒に教会に行こうよ
牧師様が仰ったんだ
人は誰もが愛しあうべきなのですって
僕と一緒に帰ろう

彼女は鞭打たれても笑っていた
キチガイめ! とお父さんはぶった
この子に近寄らないで とお母さんは水をかけた
そしてこの寒い所に放り投げた
神父様はいくら呼んでも出てきてはくれない

さようなら信じていた人達
僕は帰れない
彼女は帰れない
夕日はどこかに帰ろうとしている
置き忘れられた存在がここで凍りついてしまおうとするのに

優しいって言葉は人を憂う事だと聞いた
そして優という字は すぐれている とも読むと
あの子は震えながら笑っていた
そして僕の涙をなめ取って抱きしめてくれた

滴る水が傷口につららを作り
僕はそれを神父様に突き刺した
神様の像を砕いて大きな焚き火にした
熱くてドロドロした物を彼女の中に吐き出して
僕らは一晩中ゴロゴロとダンスを繰り返した

僕らの中で大きくなっていったものはとても消せやしない
もういいかい まあだだよ
秋も深まる頃 彼女は血まみれの子供を産んだ
さようならまたねと呟いて眠ってしまった
僕は血まみれになりながら小さなこの子に名前をつける
優しい優しい名前を 泣きながらつける


2001年作品



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