病弱な花々  〜言葉の花束〜 This text written by Akira Gotoh.
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 TOPテキストログ 2004年版

■2004 10/12 『音楽が終わったら』
静かな部屋。
ギターを構えて、一瞬の静止。そしてそこには一瞬の静寂。
緊張感。

一音目が静かに奏でられる。
それは、その最初の音は、生れ落ちたものが刻み始める最初の命の鼓動。
無機質な音。それだけではただの音。空間に虚しく響く。

緊張感は頂点に達する。
そして、第二音が放たれる。

音楽が・・・ 始まる。

空間が満たされていく。
景色が想起されていく。
何もかもが溶けて、眩い光を放ち始める。

やがて音楽はそうあるべき方向に向かい、はじけ、広がり続け、
その息吹を止める。
最後の余韻が消えるまでの間。
ギターが、その振動を止めるまでの間。
音楽は続く。

音楽が終わったら。
音楽が終わったら。
私はどうしたらいいのだろう。

静かに明かりを消す。
そしてまた生まれ来る音楽をひたすら待つ。
ギターは私の胸の中に抱かれて、鈍く月光を跳ね返している。

■2004 10/13 『泣きたいような夜に』
泣きたいような夜に
それでも泣けない夜に

夏の終わり 秋の風
君はどこで何を思うの

一人の夜
いつも続いてきた夜
これからも続いていく夜
なにもできない夜
僕は打ちのめされ
ひしがれて
声も無く 力も無い
正しいことはそこらじゅうに溢れていて
どれほど窮屈に感じても
もうそれに反抗できるだけの気力が無い

秋が終わったら独りで桜に会いに行こうか
誰もいない河辺で泣けるだけ泣いてみようか
かつてこの場所でした
世にも美しい約束を抱きしめて
夜が明けるまで君を探し続けようか
君はどこにいるの
僕はどこに行けばいいの

泣きたいような夜に
それでも泣けない夜に
僕は独り言葉も無くうずくまり
いつまでも変わらない時間を浪費する
もう帰っては来ない時間を惜しむ
散っていった幻を悼む
心から悼む

■2004 10/14 『ネバー・ネバー・ランドの永遠』
自らが作り上げた永遠の世界で
沈むこともなく、しかしけしてまた昇ることもない夕日を眺めている
始まりは来ない 終わりもない
いつまでも黄昏にたたずんでいる

悲しいことがあったんだ 本当に悲しいことが
初めてわかったんだ
人は本当に悲しいことがあると涙なんて出ないって事を

独り空を見ていた こうして何も変わらず
いつからか もう思い出せないけれど
こうして独り空を見ていた

もう何も望むべくもない
この一日は永遠に続くのだから
何も喪わない 何も手に入らない 何もおこらない
もしかしたらも、きっとも、多分も存在しない

悲しいことがあったんだ 本当に悲しいことがあったんだ
何もかもがぼやけていて
やがて僕は熱に浮かされたみたいになる
全部忘れてしまうことなんてできるのかな
僕は笑っていられるのかな
永遠なんて物が本当にあるのかな

ネバー・ネバー・ランドから僕はいつまでも・・・

■2004 10/19 『旋律』
ある一つの印象的な旋律を繰り返しなぞる。
それはモチーフと呼ばれる。
なにかメッセージ性や風景の想起を狙って作られるもの。

モチーフは少しずつ形を変えて何度でも顔を出す。
それは私達が日々変化しているように、あるいは進歩しているように、
成長するもの。

永遠の少年性。そんなものを考えていた。
傍らには大切な記憶の中だけの少女がいる。
二人でいつまでも夕焼けを眺めていた。
残照が消える頃。それはコドモノジカンの終わり。
「ばいばい」と言って小さな手を振る。何度でも何度でも、繰り返し手を振る。
私達が行き過ぎてきた風景。振り返る場所。
記憶の中でそれはいつも鮮明な紅に彩られて、静寂と神聖の景色に染まっていく。
そんな情景を音に込めた。

モチーフ。
繰り返される、小さな願い。
繰り返される、小さな約束。
永遠の約束。

----ずっと子供のままでいよう----

夕焼けの中で君が笑う。
最後の夕焼けに溶けて君が笑う。
汚れの無いその約束は今もこの胸の内をズタズタに切り裂き続ける。

その痛みを全て音に乗せて、そっと張り詰めた虚空に放つ。

■2004 10/20 『手紙』
今日、君に初めて手紙を書きます。
僕を巡る環境もあの頃とはずいぶん変わって、
少しだけ、本当に笑えるようになりました。
君と笑っていたあの頃をずいぶん昔のことのように感じます。
気がつけば今年で5年も経つのですね

こちらは秋が来ました。
鮮やかな秋です。
何も迷いのない圧倒されるような秋が来ました。
それだけはあの頃と何も変わっていません。
ただ、君のいない世界です。
君を見殺しにした者達が住む世界です。
でも、とても綺麗です

最近、眩さを眩いと素直に感じられるようになりました。
刻々と変わっていく空を、ぼんやりと屋上から眺めている時間が長くなりました。
少し肌寒いです。
なんとなく手を摺りあわせていると、その度に夏の影は遠ざかっていくようです。
少しだけ、君の手の暖かさを思い出しました。

真っ白な頭に時折思い出されることがあります。
それは突然耐え難い想いになって、
今でもこの体を蝕みます。
そして氾濫した言葉が逆流してこの体を突き通して行きます。

吹き抜けていく風を追って、また空を見上げました。
そのあまりの完全さに無意味な言葉の群れも消されていくようです。
空がいつまでたってもそのまま空であること。
それが本当に幸せだと思います。
あなたがいつも飛びたがっていた空、そのままです。

そういえば昨日、陽子から電話がありました。
懐かしい声でした。
来年子供が生まれるそうです。
結婚の知らせは春先に受け取っていましたが、
なんとなく会えないままここまで来てしまいました。
君に見せたかった、と陽子は言っていました。
今の幸せな姿を見てもらいたかった、と言っていました。
その声は涙で掠れていたけれど、
もう、君が一番心配していたあの弱い陽子ではありませんでした。
時間はちゃんと過ぎているのですね。

思いついたことをそのまま書くうちに、
何を伝えようとしてこの手紙を書いたのか分からなくなってしまいました。
手紙を書くこと自体本当に久しぶりですから勘弁してやってくださいね。

仙台はすぐに冬になります。
いつか君に見せると約束したまま果たせなかった、
雪景色に覆われる季節が来ます。
濁りの無い風景です。
僕の一番大切な風景です。
あなたに一番見せたかった風景です。

また、その頃に手紙を書きます。

■2004 10/29 『記号的物語概論』
君と、僕という記号に基づいての『物語』考察。

丸いテーブルを用意してください。
白い物がいいです。
その真ん中に線でもいいし、棒でもいいです、
何か真っ直ぐで確かな物を使って区切りを作ってください。

線で区切られた片側に、『君』を。
もう一方に、『僕』を。
その意味を表す目印になるように何かを置いてください。

最後に、区切られた線の丁度真ん中に、
小さく丸を描いてください。
それが『物語』です。

わかりますか?

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 君 「これは、本当の物語なのかな?」
 僕 「さあね」

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ト書き

 『君』と『僕』、退場。
  突然照明が落ちる。
  舞台を覆っていた幕が落ちると、そこは見慣れた部屋の中。
  一条のスポットライトが客席後方から走る。
  照らし出された白く足の高い丸テーブルの上に一枚のメモが置いてある。
  酷く乱れた走り書きの字で『ボク、という受動的な存在否定』。

■2004 11/04 『てのひらを 太陽に』
自由を静かに手のひらに載せて、
そっと握ってみる。
消えていないことを確かめてから、
震える腕で恐る恐る抱きしめてみた。

形の無かった想いはいつしか僕の全てになる。
誰でもなかった君はいつしか僕の大切な人になる。

誰もいない劇場の舞台。
スポットライトの下。
無造作に置かれた真っ白い丸テーブルの上。
そのテーブル上で二つに区切られていた領域に小さな穴が開く時。
君と、僕が出会う時。

ああ、どこからか喜びの歌が聞こえる。

自由を手に入れたのだから、
今度こそ、それは本当なのだから、
僕たちはどこまでも行けるよ。
君は震えながら頷いて差し出した僕の手をとった。

そっと足を道に下ろしたんだ。
初めて、自分の足で歩いたんだ。
道はどこまでもくねくねと続いていて、
空はどこまでもぼんやり笑っていて、
風が気まぐれに歌っていて、
立ち並ぶ木々はくすくす笑っていて。
この目に映るものが、この手に触れるものが、本当に綺麗。
真昼の月にも行けそうな気分。
そして月の草原で寝っ転がれそうな気分。
初めて、そんなことに気付いたんだ。

てのひらを 太陽に
嬉しくて嬉しくて、少しだけ悲しいね。
あの空へ伸びていく無数の命たちと一緒に笑おう。

てのひらを 太陽に
いつのまにかそこから自由はいなくなっていたけれど、
そんなのちっとも構わないんだ!
懐に隠していた銃を今日こそ投げ捨てて、
さあ、どこに行こうか。

てのひらを 太陽に
透明だった僕は、今日、僕だけの僕になる。
誰でもなかった君は、今日、僕の大切な君になる。
この物語は、本当の物語になる。

てのひらを 太陽に
ああ、ご覧!
そこに僕たちが本当に求めていた、
そしてそれは最初からずっと自分達が持っていた、
この世で一番美しい贈り物がある。

てのひらを 太陽に
精一杯伸ばした僕達のちっぽけな二つの手が、
いつか、それを掴むんだ。

てのひらを、てのひらを

■2004/11/10 『imitation good-luck #3』
さあ叫んでくれ 大口を開けてさ
下らない歌を歌うヒキガエル共を黙らせるんだ
孤独な旅人が愛したたった一つの歌を歌うのさ

自由を手に大空へ舞い上がってゴミ溜めの中にまっさかさま

枯れた爺共が泡を吹きながら絶叫する十代の苦悩とやら
その効果はテキメンだったぜ
夢物語に踊らされて
俺は有りもしない喪失感にのた打ち回る

楽園に辿り着いた少年が手に入れたのは
目も眩むばかりの財宝と最上の女
そして素敵なドラッグ

くそったれ

さあ手を挙げろ
誰からだ 手を挙げろ
少女に銃を持たせたのは誰かなんて責任転嫁もいいところだぜ
劣情を吐き出してきた代償を払う時だ
さあ手を挙げろ

初めに伝説が産まれた
二番目に偽者が
そしてほら、お前の手にあるのが三番目だよ

さあ叫んでくれ 叫んでみろよ
俺たちは舞い上がり、すぐさまめり込むんだ
三番目しか握らされない屑共に幸福を
さあ叫んでくれ 馬鹿みたいに泣きながらさ
真似事でしかない時代に終止符を打つんだ
いくら寄り集まっても孤独は解消されない物さ
お気に入りの忍耐をこれ見よがしにひけらかしながら
夢物語にのた打ち回ろう

自由を手に大空へ舞い上がってゴミ溜めの中にまっさかさま

■2004/11/25 『走って』
走って 走って 走って
忘れかけた夢の足元まで行こうか
いつの間にか薄れていった古く甘い思い出の元へ
走って 走って 走って
もう一度だけ見上げてみようか
出会った頃に探し続けていたあのビルの上の空を
走って 走って 走って
また大きな声で笑おう
走り始めた頃と変わらない強さで

HELLO! どうしてる?
でかい夢には辿り着けたかい
きっと今も叫んでいるんだろ どこかで

HELLO! 懐かしいだろ?
今でもでかい声で歌ってる
果てしなく蒼いこの空の下で みんなもきっと

走って 走って 走って
走り続けて
HELLO! またいつか出会えたのなら
一番最初に伝えたい事があるんだ

変わらない強さで 変わらない眩さで
この道はどこまでも続いてる
自由な空へ 自由な明日へ
なにもかも走り始めた頃と何一つ変わらない

この不器用でガキ臭い歌を君に贈るよ
もう一度思い切り叫ぶよ 心から叫ぶよ
永遠に叫び続けるよ
まだ何も忘れちゃいないから

走って 走って 走って

■2004/12/03 『Rock'n'Roll』
優しさという毒ならいらないよ
泣き顔なんて見たくない
この銃を突きつけるから
どうか 受け入れて

吐き気がするけどね

赤裸々に真っ裸で歌いたいだけだ
デカイ声でロックンロールしたいだけ
本当の音が聞きたいから叫ぶんだ
LOWからHIGHへ一気に行くぜ
エンスト上等 気分は上々
同じ穴のムジナ

愛とかいう幻なら間に合ってる
渦巻く劣情を下僕にして僕達は飛び上がるから
はらはら 花が落ちるように
裏腹 欲望はとめどない
ステキな事を教えておくれよ

随分ロックンロールしてない
しばらくロールしてない
君を憎んでもいいかな
いつも言葉は代用品だったけど
反抗してもいいのかな
どうしても譲れない物があるから

甘すぎるシロップに首まで浸かって
すっかりとろけてしまった
優しさという嘘ならいらないよ
君に僕の欲望を受け止めきれるのかな
口を大きく開けて待ってろよ
卑猥は時に最も滑稽な偶像だね

剥き出しの銃を空に向けて放つ
何度も繰り返しては自己嫌悪の歳末大売り出し
だから少年はギターを握って光の中へ走ったんだ

随分ロックンロールしてない
しばらくロールしてない
最後に泣いたのはいつなのか思い出せない
くわえ煙草の煙が目に染みる
そろそろ行こうか?

吐き気がするけどね

■2004/12/09 『いざや 道行』
振り返る道がまっすぐで寂しい
烏一羽きりで稜線を越えてった
鮮明になっていく意識の奥で目覚める
ここでまた目覚める

例えば枯れ果てた森の奥へと今日も足を向けること
名も知らない木々の下で出会う人のこと
交わす言葉と黄昏待ち
坂を下る私達の伸びていく影は魂よりも長い

蛇にまたがって天国まで行く
神様こんにちは とか
挨拶から始めるのが妥当だろう

やがて降り積む雪景色の中に見る貴なる泡沫行脚
いざや いざや 花落ちる
いざや いざや 鳥開ぐ
いざや いざや 風さやく
いざや いざや 月響む

切られる花を病人が見ていた
日々の心痛はらから裏腹かんな
花踏む人の名を問えば ゆめまぼろしと答う
雨つむ道を歩いてここでまた目覚めるから
いざや 僕はこの道を歩くから
死せる森の奥で苔むす屍に
一言苦言を呈したいと思っただけさ

振り返ることに飽きたから
溜め息一つ残してまたこの道を歩こう
肩に食い込む荷物は増えていくばかり
ゆめまぼろしに囚われて 有為の奥山今日越える
いざや いざや 浅き夢見じ
いざや いざや 酔いもせず

■2004/12/15 『北風』
君が好きだと言ったアロマに火を灯す
部屋中に君の匂いが広がっていく
外はもうすっかり冬模様で
どこかで誰かが恋に落ちている

街角ではライトアップされた並木
その下に続く道
コートに隠れてこっそり歩いていく人波
誰かに何かを伝えたがっているような優しいショウウィンドウ
ともしび 照らされる横顔は笑顔だと良いな

街にはまだ雪も降らないのに
慎ましくアロマの火は香って
曇り行く窓ガラスの中に夢を広げた
雪の匂いもまだしないのに
君はそうやって夜空を見上げる
マフラーに埋まった口から歌を囁きながら
僕達は冬を待つ
待ち続けるんだ こんな場所で

燃え尽きそうなアロマに手紙をくべてみた
酷い匂いだ 僕の想いも同じように腐っていたのだろう
君に伝えたかった言葉の羅列はあっという間に黒へ
そして灰へ
窓を開ければ強い冬風
そっと解き放つ

街にはもう冬が来ている
片隅で誰かが恋に落ちている
どこかで誰かを抱きしめている
まだ雪も降らないのに

風は北から吹く
迷わず 速やかに
南へと

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