『精神天使と彼女』

いつもどおり僕が話をするといつもどおりの答えが返って来る
「あなたの価値観は狂っている」と彼女は笑っていた
解ってもらえるなんてこれっぽっちも思っちゃいないんだ
僕のために僕の横でずっと笑っていてくれればいい
いつもどおりの時間いつもどおり僕は右側の階段を上り続けて
壁に身を預けるように歩いて君の部屋まで行く とても疲れながら
「病院の匂いなんて大嫌いだ」といつもどおり思いながら歩いていく
別の部屋からはうめき声や笑い声が溢れ出そうとしている
僕をどこかに引きずり込もうとしているような気がする
いつもどおり僕は部屋に入る 真っ白な部屋に入るのは簡単だ
彼女は天使の絵を胸に抱きながらそれにナイフを突き立てていた
何度も何度も笑いながら突き刺していた
白い部屋は綺麗な紅色に染まったけれど
僕はどこにも逃げられない 逃げるすべを忘れてきた
逃げ出すための銃を車に置き忘れてしまった
こめかみに熱い血が溜まってきている
いつもと同じ場所に花を置く 置き場所はとても綺麗になった
彼女はいつものように笑顔を僕に向けたまま そう僕に向けて
血の泡を吐き続けていた 嬉しそうに笑ったまま
ずっと隣にいたいけれど僕は彼女にナイフを渡した天使を
探しに行ってはらわたを引きずり出さなければならない
彼女の天使は大木に跪き何かを願っている
ちょっとはにかんでいるようにも見えるずっと遠くを見ている
僕はわからないから君のことなんて知らないからと叫んで
赤い化粧をした天使を切り裂いた
もうこれでおかしな夢を見ないですむ
もう床には白い所なんてないのかもしれない

「いつも誰かに見られてるのずっと私を追いかけてきて
 やがて追いつくと追いついたのは私の足をすり潰そうとするの
 私はやめてと言うけれどそれはニヤニヤしながら自分の指を
 噛み千切って私に見せるの怖いのとても怖いの逃げたいの」
と彼女が叫んだのを覚えているような気がする

彼女はいつも独りで笑い続けていた
僕はいつも独りで待ち続けていた
心の支えなんて何もないのにずっと笑いながらベッドの中にいた
立ち続けているわけには行かない 時間がなくなっていく
彼女のナイフを胸の天使から抜く 彼女は崩れ落ちたけど
僕は天使を探さなければいけない自分の命を何かに使わなきゃ
彼女に永遠の楽園を教えた天使を探さなければならない
それは僕がこのまま生き続けるためにぜひ必要なこと
何も知らずにずっと歩き続けるようなこと顔を引きつらせながらすること
深い暗闇の中にある静かな所を進むように這いずり回るように
手のひらをぐっと握り締めて僕は泣きながら歩き回った
床はいつも僕を飲み込もうとしているもっと早く歩かなくちゃならない
一つの扉を開けると男が一人ベッドに体を起こしている
「お前が天使か」と聞くと男は笑いながら右手を僕に差し出した
精神異常者めと罵りながら首を切ると男はぎょっとして
男は一瞬驚いた顔をしてそのまま動かずに瞳だけ動かして
目を僕に合わせた 僕は目をそむけられない目を見てしまう
ゴミめ僕を見るなよ精神異常者めと僕は叫んでその腹に突き刺した
手は真っ赤になっているちょっと汚い赤に染まっている
まるで初めて絵の具遊びをしたみたいだと思った
男は何か言おうとするんだけど何も言えなくて男は動けなくて
男は何もできなくてそのまま動かなくなったけど僕は満足しない
きっとこいつは天使じゃないと思った 誰も場所は知らない
僕はナイフを振り回し続けるずっと笑い声が聞こえる
いいさここにいるのはみんな頭の狂った奴ばかりなんだ
ゴミは消すべきなのさゴミは転がしたままにいるもんじゃない
やがて僕は白い服を着た人を見つけた あいつは誰だ
顔は知っている 彼女は知っていたはずだ 知っていた
彼女の天使は逃げていこうとしている
僕は追いかけて腹わたを握りつぶさなけりゃならない
どこまでも逃げていくから僕はずっと走ったし
ずっと逃げていくから僕はずっと「待て」と叫んだ
逃げることは悪いことだと誰かが言ってた
一つの部屋に入ると誰かが銃で僕を撃った それでわかった
ああ、やっとこれで逃げられるずっと逃げようと思っていた
彼女の天使から逃げられるんだと思った

それから

いつかまた僕の横で君が笑ってくれますようにと
そしてそれは天使の血で満たされますようにと
僕は僕を撃った男に叫んだのを覚えている




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