『三文芝居』

終わりは見えていたから
全ての言葉はただの余興にしか過ぎなかった
それでも彼女を抱きしめたのは
僕に最後に残っていた少年性の名残の為だったのだろう
ただそれだけのことにしか過ぎなかったのだろう

光を失った街角でへたり込んでしまっては
星さえ見えない空を見上げて自虐的に笑ってみた
目前を通り過ぎる大人達の眩暈のするような群れ達は
希望の一つも伝えてはくれなかったけど

力を失って僕らは立ち尽くした
言葉を失って僕らは立ち尽くした
光を見失って僕らはバラバラに砕けた

音を失った廃ビルの屋上から地上を見下ろす
眼下に揺れるあまりに淡い人の灯よ
いつかの日には優越感を覚えたこともあったろうか
いや 美しいと思っていたのかもしれない
今や口を開けば止めることの出来ない嗚咽だ
僕達が最も倦んでいたものだ
この手から失ったものは何だ?
どうして何かを失わなくてはならなかったのだろう
どうしてこの手を離してしまったのだろう

終わりは見えていたから
日々はまるで三文芝居
本気の三文芝居
彼女の手 声 肌 香 吐息 僕の欲望
幕は下りて舞台はいずれ解体されたけど
僕は闇に呑まれて行く夕暮れの中で
あなたの名前を幾度も呼んだ
あなたの声を 手を 温もりを 嘘を
幾度も幾度も望んだ

両腕を伸ばしたのは決して空が欲しかったからではなく
それがあまりにも遠すぎたからだ

だけど

彼女の声はそんな意固地な心でさえも
容易く見たことも無い柔らかさへと押し込んだから

気持ちを伝えることなんてできやしない
できやしないよ
泣きながら無様に君にかじり付くだけだよ
そして一時も離れたくないと
何も見えずに駄々をこねるだけだよ

人影の絶えた街の片隅で
街灯をスポットライトにしてキスを交わそう
終わりなんていつかあるもの
それならば肩を組んで
この安っぽい日々を喜劇で染め上げよう
幼い歌がエピローグを告げるまで
果てしない朝日が新しい舞台を照らし出すまで
僕らは気乗りのしない顔を繕っては
物陰まで走っていってゲラゲラ笑おう

始まりがいつだったかなんて覚えてないし分からない
終わりは確かに来るだろう
終わらない物を信じていたいけれども
今は静かにレクイエムを歌おう
彼女の柔らかな声が僕に届いた
彼女の暖かな舌が僕を溶かした
抱きとめた腕に光を感じた

終わりは見えていたけど
僕らは下手な余興を続ける
こんな音も光も無い いつかの廃ビルの上でさえも




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