『世界の終わり』


天使の歌が聞こえるから
そろそろ終わりなんだろう

外は思ったよりも静かで
火をつけた煙草もいつもと変わらない味だ

悲鳴も 絶望も 落胆も 明日も無い
将来やりたかったことの数を数えてみたら
いつのまにかそれすらも無くなっていた事に気付いた

ドアを開けて外に出てみる
あっけないほどの終わりがそこにあった

道々に転がった終末を眺めながら歩く
もし世界に生存の痕跡が残るとするなら
人類の痕跡を発見した次の生命は
きっと悲しい顔をしてそれを見るだろう
もしかしたら嘲笑するかもしれないが

やがて後ろから一人の天使が歩み寄ってきた

「終わりです」
「そうみたいだね」
「お疲れ様でした」
「ああ。疲れたよ」
「どうしますか」
「少し話をさせてくれないか」
「わかりました」

俺たちはのんびりと歩きながら話した
まず天気の話から始めて
最終的に昨日食べた夕飯の話で終わった

「あなたは奥ゆかしい人です」
「ありがとう。俺も楽しかったよ」
「それでは、よろしいですか」
「ああ、最後に一つだけ」
「はい。なんでしょう」
「この世界は結局なんの為に産まれたのかな」
「理由なんて有りません」
「そうか」
「虚しいことです」
「そうだね」
「なにかを期待しましたか」
「いや。まるで」
「そうですか」

傍らを通り過ぎたビルとビルの薄暗い隙間では
別の天使が美しい顔で人間を貪り食っていた
また別の路地の奥では
人間が三人がかりで天使を輪姦していた
誰の顔も晴れやかで清清しかった

「素晴らしい世界だ」
「そうですね」
「何て無意味な世界だ」
「得てしてそんな物です」
「なべて世は事も無し、かな」
「意味を求めること自体が間違っています」
「ああ。分かるよ」

天使は整った顔を少し歪めた
笑おうとしたのかもしれない

「世界の始まりは何だったのかな」

その問いはきっと永遠の謎
誰も辿り着けない最後の謎

「きっと誰かの憂さ晴らしか妄想でしょうね」
「いいね。そういうことにしておこう」
「さあ、終わりにします」
「ああ」

俺は天使の細い首に手をかけて
彼女の骨を折った
両翼を引き千切ってその血を飲んだ
悲鳴は無かった

真っ赤だ
世界は真っ赤に染まった

「ああなんて爽快なんだ」

世界はまだまだ続く
なぜなら俺が存在し続けるからだ

「つまり世界は終

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そこでペンを止めて、
女子中学生は原稿用紙を始めから見返した。
溜め息を一つついて、くしゃくしゃに丸めた後、
ゴミ箱に向かって放り投げる。

自室からベランダに続く窓を開けて、
煙草を取り出すと、
つまらなそうな顔でそれをふかし始めた。

ゴミ箱から外れて床に落ちた原稿用紙の中で、
世界は唐突にその終わりを迎えた。





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