『小さな手』
もう、悲しくはない? 透明な夢の中 湧き上がり空へと消えていく光の中 よく、がんばったね そんな声が聞こえた気がして もう泣かない 僕は優しい手に引かれて歩き出したんだ ううん、それはきっと正しいから 光の中へと 薄い闇の中で目を覚ました ぼんやりと頬を涙が滑り落ちていくのを感じていた 無意識に隣の気配を探ると 今度こそ涙ははっきりと溢れ出した 小さな支えがそこにあった それだけで俺はこうして立ち上がることが出来た だから俺は守ろう この温もりを守ろう それすら僕には許されない事だったのだろうか -- 終わりの時間です -- 光が揺らいだ 「お母さんのこと、教えてほしい」 小さな手が白くなってしまうほど この子は俺の手を握り締めると はっきりとそう口にした 僕はもうどうするべきか知っていた 神様! そうですかこれが俺の罰ですか 何もかもが揺らいだこの世界の中で取り残されて 今、この瞬間に、事実を、本当のことを、残酷な真実を、 俺に語らせようというのですか 涙の溜まった目を僕に向けた娘の真摯な顔が あまりにあいつそっくりだったから 「あいつは・・・」 僕は日常に別れを告げる事を決めた この街は常に変わって行って とどまるところをしらなくて 大切な場所とかなんとか そんな物は一つ残らず消されていって でも思い出を押しつぶした物が大きな病院だったりして この気持ちをどこにぶつけたらいいのか分からないんだ だから見守り続けるんだ 全ての人々に幸福あれ 世界は美しいから そして愛しいから 幸福あれ と 願う 心から願う ああ、君に伝えたい事があるんだ いいかな? 幸せだったよ 本当にそう思ってる なにも望みようが無いくらいに幸せだった そしてそれを失う事が俺には耐えられなかったんだ 俺たちは人間で生きていく その為には人の死でさえも受け入れなくてはならないのだろうか だけど俺たちは心を持っている そして生き物だ 幸せになりたくて 幸せになりたくて 生きていく 生き物だ 大丈夫 君に伝えよう 涙はもう流れなかった 光が揺らいだ 僕は窓を大きく開けた
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